よくある士業事務所 独立・開業の失敗のシナリオ

士業

一般的な士業が事務所を独立・開業してから1年間の間に、どんどんとジリ貧に陥っていく典型的なプロセスを、ストーリー風にご紹介します。


一般的な士業「Kさん」の失敗のシナリオです。

不安もあるけど、期待でいっぱいの独立・開業

Kさんはサラリーマンをしながら、夜や休日を使って勉強して、念願の資格試験に合格。
そして、いよいよ当面の運転資金200万円も貯まりました。


自宅をオフィスにできれば安上がりだとは思いましたが、それができない事情もあったので、Kさんは事務所を構えることにしました。


オフィス探しは非常に楽しいもので、夢の膨らむ毎日でした。


当初計画していた予算では家賃は月7万円のつもりでしたが、駅から近く、広めのきれいなオフィスが見つかったので、Kさんはお客様の利便性も考えて、思い切って月9万円のところを借りることにしました。


結局、家賃のほかに初期費用として、保証金などに約30万円、事務所の机や電話などの購入に10万円かかりました。

士業事務所、独立・開業の挨拶状を送る

オフィスが決まったKさんは、独立開業の挨拶状を知人に送ることにしました。


士業の業務には、相続、離婚、自動車関連など、誰の身にも起こりうる場面で必要とされる仕事がいろいろあるので、たくさんの知人に士業になったことを知らせれば、きっと誰かしらから、すぐに仕事の依頼が来るのではと期待したのです。

士業の実務と法律を勉強する

サラリーマンのかたわら試験勉強をしてきたKさんは、士業の実務がどういうものなのか、まったくわかりません。
士業の試験では実務のやり方を問う問題は出ないのです。


また、士業の仕事の種類は多く、関連する法律はたくさんあります。
試験に合格したからといって、すべての法律を完璧に覚えているわけではないのです。


このままでは、首尾よくお客様が来たとしても、具体的な説明は何もできず、仕事になりません。


そこで、インターネットで検索してみたところ、士業の実務を教えてくれる塾というものが、数は少ないですが、あることがわかりました。
テキストやら一式で15万円かかりますが、Kさんは早速通うことにします。


「士業の実務を早くマスターして、バリバリ仕事を受けるぞ」


法律の勉強も、それと並行して続け、張り切るKさんです。

同期の士業への連絡

「そうだ。一緒の時期に独立開業した同期の士業は、何をやっているんだろう」


ふと気になったKさんは、最初に顔が思い浮かんだ同期に連絡してみました。


「俺は、駅前に事務所を借りて、実務講座を一生懸命勉強して、知人に挨拶状を出しまくったよ」


Kさんの近況報告を聞いた同期の士業は、

「俺は、家賃が払えそうもないから自宅での開業だし、人脈もまったくないから挨拶状も書いてない。実務研修? そんなお金、ないよ」

と言っています。


これを聞いたKさんは、嬉しくなります。


自分は同期と比べて、二歩も三歩もリードしている、と。

ビジネス交流会への参加

「よし、他士業と提携しないとできない仕事もたくさんあるし、見込み客との出会いもあるだろうから、ビジネス交流会に行ってみよう」


平日の夜スタートの会費4000円のビジネス交流会に参加したKさん。


まだきちんとした名刺は用意していなかったので、手作りの名刺を持って行きました。


交流会ではどの参加者も、資格を取って独立開業した自分のことをすごいすごいと言ってくれました。


「これだけ皆、いい反応をしてくれるなら、仕事も簡単に取れるんだろうな」


法律家としての誇りをも新たにし、将来に一層の夢を膨らませて、Kさんは、その晩、実にいい気分で帰宅しました。


数日後、Kさんの事務所の電話が鳴りました。
一瞬、仕事の依頼かと期待したKさんでしたが、交流会で知り合った名刺会社の人からの営業の電話でした。
ホームページ制作会社からも電話があり、ホームページは今や事務所の顔だと言われました。


確かにそのくらいしないとお客様は来てくれないとKさんは思い、事務所の名刺、パンフレット、ホームページを計20万円で発注しました。


「ホームページも作ったことだし、これでインターネットからも問い合わせが来て忙しくなるぞ」


士業事務所開業の登録から、事務所の不動産契約、事務機器の購入、挨拶状、実務研修などなど…。
Kさんの開業1か月目は、こうして過ぎていきました。

初めての相談

自分には、他の新米の士業より実務の知識はあるし、見栄えのいいホームページも、駅から近いオフィスもある。


いよいよ依頼を受ける態勢は万端整ったと思ったKさんは、あとは仕事の依頼を受けるだけだと勢い込んで、挨拶状を出した知人たちへあらためて電話やメールをしてみました。


するとすぐに、ある知人が相続関係の相談があると言ってきました。


Kさんは、知人との面談の日までに、どんな質問を受けても受け応えができるように万全の準備をしておこうと、相続にかかわる法律について、猛勉強をしました。


アポ当日は勉強の成果もあって、知人の質問に正確に答えられ、知人も納得しているような様子でした。


「よし、これは正式に仕事を依頼してくれる」


面談場所から事務所へ戻る道すがら、Kさんはそう確信していました。

なんとなく忙しくなり始めて

知人と面談した日から1週間が経ちました。
その後、知人からは何の連絡もありません。


Kさんは、知人に電話することにしました。


「先日の相続の件、どう?」
と知人に聞くと、


「相続の件は、実際に動くまではまだちょっと時間がかかりそうなんだ。もうちょっと待って」
と言われました。


Kさんはしかたなく、いつかは依頼してくれるんだからと自分を納得させて、電話を切りました。


その後、他の知人や、知人から紹介されたという人からも、相談らしきものを受けることが何度かありました。


Kさんは、その度にそれぞれの相談にかかわる法律と業務について勉強しては質問に答えるということを繰り返しました。


仕事の正式な依頼は取れないものの、Kさんは面談や事前の勉強で、そこそこ忙しくなり、なんとなく自分が仕事をバリバリやっているようなつもりになっていました。

資金が途切れそうなことに気がついて

ところでKさんは、オフィスを借りる時の初期費用として30万円、名刺・ホームページなどに20万円、士業の実務研修などに15万円、その他、電話・机などの購入に10万円の合計75万円を開業時に使っていました。


また、毎月の出費として、家賃9万円、通信費・水道光熱費などに2万円、交通費などその他経費に4万円近く、そして知人・同期との飲食費やKさんの生活費として20万円と、合計35万円程度かかっています。


つまり、Kさんの収支を毎月黒字にするためには、最低でも月35万円以上を稼がなくてはいけません。


Kさんが本格的に営業を開始したのは、開業から約1か月半以上、ほぼ2か月後といってよい時期でした。
この2か月間の無収入期間にも、月あたり35万円×2か月=70万円のお金が出ていっています。


すでに、Kさんの預金残高は、200万円―初期費用75万円+2か月分の出費70万円=55万円しか残っていません。


あと約2か月分の運転資金しか実は残っていなかったのです。

そこそこ忙しいのに依頼が来ない

Kさんは預金残高がみるみる減っていく事態に焦る気持ちはありつつも、そこそこ忙しい毎日を過ごしているため、自分が無収入であるという実感がなく、どこか少しのんびりした気持ちでいました。


「仕事の種はたくさん蒔いたんだから、依頼はきっともうすぐにでも来るはず」
と。


でも、ひととおり知人などからの相談に答えてしまうと、いよいよアポイントがなくなりました。


今までの社会人生活で築いた人脈を駆使して、依頼してくれる可能性の高そうな相手へ営業してきましたが、それもここまでです。


依頼を待つ日が続きました。


しかしなかなか、依頼は来ませんでした。


Kさんが独立開業してから、3か月が経ち、もうすぐ4か月になろうとしています。


事務所の運転資金はショート寸前でした。

確実に依頼してもらうために

そんな時、別の知人から相談を持ちかけられました。


「今度は何がなんでもモノにしよう」


何度も知人の相談に乗ってきたKさんですが、相談内容は人それぞれ違うので、関係する法律も違ってきます。
そのため、相談を受けるたびに勉強で忙しくなります。


今度もKさんは、猛勉強しながらアポイントの日に備えました。


そして今回は、確実に依頼を得るために、Kさんは切り札を用意していました。


それは、「破格の値段」で仕事を受けること。


仕事は受注できないし、運転資金も残り少ないので、しかたがありません。


結果として、説明もそこそこに、料金の割引を切り出してすぐに、Kさんは初めての受注に成功しました。


「なんだ料金を安くすれば、お客さんは取れるんじゃないか」


今まで猛勉強で準備してきた努力は何だったのかと、肩透かしをくらった思いもありながら、案外簡単なことだった、これで大丈夫だと安堵するKさんです。

依頼を受けてみて…

こうして初めて受注した依頼に、Kさんは大苦戦します。


法律知識については、相談を受ける前に一生懸命勉強しました。


しかし、具体的な案件の実務となると、研修を受けて基本はわかったつもりになっていたKさんですが、実際にはまったくわからなかったのです。


時間だけがどんどん経っていきました。


そんな中、Kさんの事務所に、新規に依頼したいという話が舞い込みます。
これまた別の分野の案件です。


Kさんは、最初の案件をこなすだけでも手に余る状態でしたが、運転資金が足りなくなっては困るので、その依頼をまたもや「破格の値段」で引き受けます。


「よし、これで2件目の受注だ。ちょっと調子が出てきたな」

なかなか終わらない案件処理

具体的な実務がまったくわからない案件を、2つ抱えることになったKさん。


1件目の案件に取り組みながら、2件目の案件についてもゼロから勉強しました。


確かに2件の受注で、事務所が生き延びることはできました。


しかし、仕事の進め方、終わらせ方がまったくわからず、ミスを繰り返します。


士業の仕事には正確さ、スピード、依頼主へのわかりやすさが欠かせません。


Kさんには、そのどれもありませんでした。


最初のお客様がKさんの仕事ぶりに激怒します。


「来週までに仕事を完了してくれないと困る」


Kさんは、必ず間に合わせます、ご安心くださいと頭を下げるしかありません。


その後の1週間は、1件目のお客様の案件に全精力を費やしました。


そして何とか仕事を終えました。


2件目もミスはたくさんありましたが、何とか仕事を終わらせました。


「よし、この2つの業務ならもうできる」

やっぱり増えない依頼

2つの仕事をトラブルを起こしながらも終えたKさんは、その後も「破格の値段」で同じように仕事を受け続けました。


基本的には、人からの紹介が頼りです。


しかし、毎月アルバイトのような月収。
10万円程度にしかなりません。


依頼の受注数はまったく安定しません。


依頼は少ないのに、たいていが未知の案件のため、法律をあらためて勉強したり、おそるおそる仕事の進め方を確認しながらの実務処理となるので、やたらと忙しいのです。


お客様にもよく怒られ、修羅場となることもあります。


開業からもうすぐ一年が経とうとしています。


年商300万円未満


ワーキングプア


副業や廃業が当たり前


まさにそうなってしまっている…。

一人だけ成功している〝非常識〟な士業

士業として飯を食っていくのは、やっぱり難しい。
そう感じ始めたKさん。


唯一の慰めは、同期の士業のほとんどが同じような境遇にあるということです。


早々に士業でやっていくことに見切りをつけて、辞めた同期もいます。


そんな同期が集まっての飲み会では、仕事の愚痴でお酒が進むのが常でした。


しかし、ある時の飲み会で、Kさんは聞き捨てならない話を耳にしました。


「ほら、同期でIっていただろう?」


「あー、この飲み会には、全然顔を出さない奴だろう?」


「そうそう。あいつって新卒入社した会社を1年も経たずに辞めて開業したみたいだし、お金も人脈も経験も何もないって言ってたよな。もうとっくに士業は辞めてサラリーマンに戻ってるんじゃないの?」


「若いから俺たちと違って、いくらでも就職できるからいいよな」


「いやいや。あいつ、まだ士業やってるらしいよ。しかも、今は表参道にオフィスがあって、月商300万円で従業員も4人いるんだって」


「え?」


Kさんは、頭を後ろから殴られたような気がしました。


同期でめちゃめちゃ成功している士業がいるなんて…。


しかもそれが、I?


そう、実はKさんが開業したての頃に、連絡をした同期こそがI君だったのです。


その時、確かI君はこう言っていたはずです。


「俺は、家賃が払えそうもないから自宅での開業だし、人脈もまったくないから挨拶状も書いてない。実務研修? そんなお金、ないよ」


そんなI君が、なぜ、どうやって成功しているというのでしょうか?


自分のほうが絶対に成功に近かったはず。


常識では決して考えられなかったのに…。


酔いも手伝って、頭がクラクラしてくるKさんでした。

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